2007年6月18日月曜日

政府が「人間の安全保障センター」の創設を検討


参院ODA委で提言を採択、政府は「検討する」構え
「人間の安全保障センター(仮称)」の設置盛り込む

昨日13日水曜、民主党の犬塚直史議員が筆頭理事を務める参議院政府開発援助に関する特別委員会(委員長:内閣官房副長官・山﨑正昭氏)において、『政府開発援助に関する調査報告(中間報告)』が提出され、『新たな国際援助のあり方に向けて』と題された提言が全会一致で採択されました。

この提言の中で委員会は、我が国の「人間の安全保障」政策に関する提言として次のような提案を行い、国際協力機構(JICA)理事長の緒方貞子氏も参加するなかで、会議に出席した安倍総理はこの提案について「検討したい」とし前向きな姿勢を示しました。

以下、その中間報告書からの抜粋です。

(1)「人間の安全保障センター(仮称)」の創設   
援助分野における人材の育成は、当委員会が最も重要視する課題である。この分野について、我が国は援助予算を飛躍的に拡充すべきである。

特に、戦略的な視点からの援助案件の創造・発掘を推進するための人材や平和構築分野において活躍できる人材の育成・確保は喫緊の課題である。

例えば、平和構築の人材育成においては、平和構築のプロセスが緊急人道支援、開発援助、ガバナンス支援、平和維持活動(PKO)など広範囲に及び、多様な活動を含むことから、これら活動が統合された研修プログラムを構築し、援助専門家の大幅な増員を目指すべきである。  

人材の育成・研修に関しては、既に「国際平和協力懇談会」報告書(平成14年12月)において提言がなされており、また、外務省より平和構築を担う人材育成のための「寺子屋構想」が提唱され、防衛省では国際平和協力活動に係る研修センターの設置が検討されている。  

このような人材育成に向けた取組は評価できるが、政府、国際協力機構(JICA)等による研修体制は、省庁間の縦割りに陥ることなく、開発援助、平和構築、PKOなど各分野に応じた合理的な分化と適切な相互交流・調整が図られなければならない。  

これらの実績を踏まえつつ、将来においては、国内外の実務者、研究者の参加によるアジアでのハブ的機能を有する
「人間の安全保障センター(仮称)」の創設を視野に入れ、総合的な研修体制の整備・強化が推進されるべきである。

(2)国際援助活動におけるキャリア・パスの確立
現在、我が国は、援助の現場での経験を持つ人材が正当に評価・活用されておらず、その人的蓄積も行われていない状況にある。また、援助の現場から戻った後の職の確保や収入の問題などがあり、現実として国際援助活動に参加し難い仕組みとなっている。

人材育成に当たり、育成された人材を有効に活用する場が伴わなければ、資源の浪費 となってしまう。したがって、自らの経験を活かしながら継続的に援助に携わることのできるキャリア・パスの確立が早急かつ確実になされなければならない。  

具 体的には、NGOや大学院等の研究機関、民間企業などからの外務省・在外公館等への継続的な登用を含む政府と民間双方向の人事交流、国連など国際機関にお ける邦人職員ポストの確保と我が国援助関係者の派遣、NGOによる援助プロジェクトの促進によるポスト形成などの施策を強力に推進すべきである。  

また、将来においては、「人間の安全保障センター(仮称)」における援助関係の人材登録制度の創設や同センターを中心としたネット ワークの形成、大学院等の教育機関との連携等をとることで、全国の援助関係者のキャリア・パスの場とし、若年層からシニア世代、自治体職員・ボランティア 等の知見・技術を活かすべきである。

尚、会議の後には記者会見も行われたので、以下のように各紙が報道しています。他に、共同、時事なども即日速報を出しました。

以降の記事では、人間の安全保障センター(仮称)」創設提案の採択のニュースがどう、犬塚議員が進めるUNEPS構想と結びつくのか、その背景を説明します。

犬塚は日本版ピアソン・センターの設置を訴え続けていた

犬塚は、今年3月の段階ですでに、政策研究大学院大学(GRIPS)主催の『新しい日本のODAを語る会』(通称「ODAサロン」)にて、次のような冒頭発言を行っていました。

発言要旨
 人間の安全保障という理念に基づく非常に広い仕事範囲のなかで、何よりも必要とされるのは人間の能力と経験です。特に日本においては、国際貢献が個人のキャリアとして定着する環境づくりが必要です。
 NGO、JICA、外務省、防衛省、文民警察、地方自治体などの幅広い分野から現役・退職後を問わず、個人参加による協力体制を想定し、これを支える給与体系、社会保障、保険制度などが整備され、場合によっては復職が保障されることが必要でしょう。新しい日本のODAを考えるに当って、日本版ピアソン・センターといったような国際的訓練施設が不可欠であることを確信します。

Source: 犬塚直史氏発言参考資料(2007年3月5日)

より詳しくは、次のような発言内容でした。

● 国際協力におけるキャリア形成(平和構築分野を例として)
・人的バンテージを強化することは重要。ODAに対する国民の理解を得るために必要なことの一つは、国際貢献が日本人にとってキャリアとして定着する社会を確立することである。いろいろな分野の人達、そして若い人達がキャリアを伸ばしていけるような環境をつくる必要がある。
・ 昨年8 月、「世界の医療団」というNGOの一員としてスーダン(ダルフール)を訪問したが、現地で働く平和構築分野の専門家は、組織の枠を超えて様々な紛争国での経験を基に長期的なキャリア形成に成功している。
・ このように、日本にも、能力があれば国際協力の分野で専門家としてのキャリア形成が可能となる方法があってほしい。これが、ひいては「顔の見える援助」につながる。

● 新しい方向性
・ スーダンに見られるように、「国家」が破綻している国は国際社会が守る義務があり、日本も平和構築分野において積極的に活動しなければならない。日本としても「紛争予防」と「紛争後の復興」支援に貢献できるように、諸外国から平和構築支援の方法を学ぶことは重要である。
・ 具体的な例として、ドイツにおける自治体レベルでの文民警察官のPKO 派遣(自治体において文民警察官のPKO 派遣を行うが、復職を保障してキャリア形成の一環を担う)、カナダによるピアソン・センターの成功例(PKO に携わる人材に対して平和構築に関するトレーニングを実施する)、英国DFID によるポスト・コンフリクト復興ユニット(Post Conflict Reconstruction Unit)への援助資金の投入等が挙げられる。
日本版ピアソン・センターを設置して平和構築に関するトレーニングを実施すること、国際協力人材プールの設置等による人材育成努力を通じて、NGO、JICA、外務省、防衛省、文民警察や地方自治体などの幅広い層が国際協力に参加できる体制(給与体系、社会保障、保険制度)を整備することが必要である。

Source: 議事録(2007年3月5日)

この最後の発言が、全てを物語っています。
日本版ピアソン・センターを設置して平和構築に関するトレーニングを実施すること、国際協力人材プールの設置等による人材育成努力を通じて、NGO、JICA、外務省、防衛省、文民警察や地方自治体などの幅広い層が国際協力に参加できる体制(給与体系、社会保障、保険制度)を整備することが必要である。

今回のODA特別委員会の提言の目玉となる箇所は、その殆どが、当初から犬塚議員が提唱したままのものです。キーワードは「キャリア」「個人参加」です。つまり、今回の提言は、日本によるUNEPS実現の最初の足がかりとなる提言になる可能性を秘めています。政府がこの提言を受けて参議院の提案を「検討」することになったことで、日本は個人参加による国際貢献を可能にする土台をやっと持てる可能性が出てきたのです。

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